契約不適合責任とは何か
不動産投資をしていると、売買図面に、「契約不適合責任免責」という言葉が出てくることがあります。例えば、「契約不適合責任は免除」といった感じです。慣れるとたいしたことはないのですが、売主は、建物に不具合があっても知りませんよ、建物が大丈夫かどうかは、あなた自身が判断してね、ということです。
不動産投資の世界では、仲介業者は、そんなの当たり前だ、と言われることも多いですが、初心者の方は、不動産投資を始めるにあたって、こういったよくわからない用語を発見した場合は、絶対にスルーしてはいけません。
不動産売買時によくある契約不適合責任免責について解説します。
契約不適合責任とは
売買契約の履行において、買主に引き渡した売買対象物である不動産が、種類・品質・数量に関して契約内容と合っていない場合に、買主に対し負うべき責任を負います。
種類・品質・数量の契約内容の中で、問題が発生(債務不履行)した場合には、買主は売主に本来の売買契約に適合した目的物の引き渡しを求めることができます。不動産では、種類や数量が異なるということは、あまり考えられないので、品質が契約と異なる際に、契約不適合責任が適用されることが多くなります。
以前の売買取引では、瑕疵担保責任として買主が請求できるのは「契約解除」と「損害賠償」の2つだけでした。それに対し、契約不適合責任では「追完請求」「代金減額請求」「催告解除」「無催告解除」「損害賠償請求」の5つが請求できるようになりました。
例えば、私は契約する際には、「屋上から室内に雨漏りしていないこと」、という条件を入れることがありますが、引き渡しされた収益不動産で雨漏りが発生したのであれば、契約時の内容に基づいて雨漏りしない状態に修理を要求できるのが、追完請求と呼ばれるものです。
もし、この「追完請求」で売主が修理をしない時には、「代金減額請求」や「催告解除」が行えます。催告解除とは、売主が「追完請求」に応じない場合、催告=通知して解除することができることを指します。売主は、「催告解除」をされたら、売買代金の返還をしないといけなくなります。
また、「無催告解除」は、契約不適合の際に、催告=通知なしで解除することができますが、契約の目的がまったく適合しない場合にしか有効ではないため、若干の修理で直るような場合では使えないでしょう。そのため、雨漏りしているだけで、すぐに「無催告解除」ができるかと言われれば、難しいと考えられます。
以前の瑕疵担保責任の時にもあった「損害賠償責任」については、同じに見えますが、契約不適合責任では、履行利益も請求できるようになりました。例えば、買主がすぐに転売して、1千万円の利益を得ることを目的にしていた場合、この転売に関わる利益を逸失した金額について、損害賠償責任とみなされるということです。
不動産売買では、瑕疵担保責任から契約不適合責任に変わり、売主の責任が大きくなったと言えるでしょう。
「売主の契約不適合責任を免除する」とは
契約不適合任の意味が理解できたところで、いよいよ本題です。不動産の募集図面や、売買契約の際の重要事項説明書および契約書の特約事項などに「売主の契約不適合責任を免除する」との一文が盛り込まれているケースがあります。
契約不適合責任は、従来の瑕疵担保責任と同様、任意規定であり、契約不適合責任を例外を除いて免除するということが可能です。※例外とは、売主が契約に適合しないことを知りながら買主に通知していなかったり、売主自らが契約内容に不適合をもたらしたり、売主が宅建業者であったりする場合です。
要するに先ほど説明した「売主の契約不適合に関わる責任を免除しますよ」という意味です。まだピンと来ない方のために、さらに平たく言うと、「売った不動産にあとから何かあっても、売った人はそれを保証する責任を負いませんよ」という意味です。
家電製品で言えば、「この商品には保証書はつきませんよ」と言っているのと同じことです。実は、中古の投資物件で個人売主の場合は、ほとんどの売買契約においてこの契約不適合責任を免除する一文が盛り込まれているのです。
ですから、この一文のある不動産を購入する際には、事前に不動産を細かくチェックしておかなければならないのです。とはいえ、収益不動産の流通の現場では、良い物件は1日で売れてしまうほど加熱しているので、建物をチェックなどなかなかできないのが現実です。
つまり、契約不適合責任免責の物件では、建物のリスクを背負って投資を始めるということを頭できちんと理解しておきましょう。そして、建物のリスクをある程度カバーしてくれるのが、火災保険なのです。契約不適合責任免責の物件で火災保険に入らないということはあり得ないことです。
契約不適合責任の期間とは
では、契約不適合責任を免除しない契約の場合、売主はいつまでこの責任を負い続けるのでしょうか。
買主側からの請求権は「不具合を知ったときから1年以内」という期限が定められています。買主はこの期限内に、売主に対して不具合の内容を通知しなければなりません。しかし、売主が引渡し時に不適合を知っていた場合や重大な過失によって見過ごしていた場合は、この期限は適用されません。
また、契約不適合責任には、消滅時効があり、通知は不具合を知った時から1年以内ですが、買主は、請求権を行使できることを知った時から、5年間行使しないと、消滅時効になります。また、請求権を行使できる時から、10年間行使しなかった場合も、10年間で時効により消滅します。
ただし、先ほどの「通知を知った時から1年以内」といのは、あくまで個人が売主の場合であり、売主が不動産会社などの宅建業者になると「宅建業法」の制限を受けることになります。
宅建業者が売主となる場合については、不動産の専門知識が少ない買主側に不利になる恐れがあるため、買主保護の考え方により、契約不適合責任については買主にとって不利となる条項を設定することができません。
そのため契約不適合責任期間についても、個人売主の時のように免除したり1年などの短い期間に制限することができず、宅建業法上は「物件の引き渡し時から2年以上」という制限が設けられています。そのため、投資用不動産を売買している中小企業の不動産会社の売買契約書のほとんどは、この契約不適合責任期間を最短の「2年間」としているのが通常です。
まとめ
・売主:契約不適合責任は、売主責任が以前の瑕疵担保責任より問われるようになっているため、売る際の不動産情報は正しく伝えること、そして可能であれば、契約不適合責任の免責条項を入れるようにすること
・買主:中古物件の場合、売主が宅建業者以外では、契約不適合責任が免責となることが多く、買主は建物や土地のリスクを見極めるノウハウを身に着けること
無料メルマガ登録:大家の味方
契約不適合責任とは何か 関連ページ
- 公募売買の意味を知る
- トラブルの多い私道負担
- 手付解除はよく知らないと無条件解除できなくなる
- ローン特約もよく知らないと無条件解除できなくなる
- 建築基準法に合致しないものは買わない方がベター
- 不動産投資の売買時の敷金の扱い
- 建ぺいや容積率が契約と違う場合解除できるか
- 宅地造成区域は気を付けないといけない
- 根抵当権付きの物件は少し注意する
- 債務不履行と損害賠償
- 仮登記されている土地・建物の注意点
- 差し押え登記がされている場合の注意点
- 保証会社が入っていれば賃料保証・明け渡しまで行う
- 滞納発生から督促状発送までの手順
- 契約解除しても出ていかない場合は、明渡訴訟
- 滞納者でない人が占有しそうな場合は占有移転禁止の仮処分が必要
- 強制執行
- 未払い家賃:訴訟・少額訴訟
- 未払い家賃:給料差押
- 連帯保証人にどこまで請求できるか
- 保証会社・連帯保証人も利用できない場合は公正証書
- 騒音トラブルの解決は難しい
- 高齢者との賃貸借契約のポイント
- 孤独死の場合の手続き
- 孤独死の場合の対応ポイント
- 入居者からの損害賠償請求への対応
- 民法改正後の原状回復
- 境界線や所有権の紛争と解決方向性
- 樹木などの越境トラブル
- 隣地を通っている下水管トラブル