保証会社・連帯保証人も利用できない場合は公正証書
アパートやマンションなど戸数の多い賃貸物件を保有していると、何かと入居者との間で金銭的なトラブルが発生することがあります。不動産投資をして資産を形成していくためには、こう言った入居者との間のトラブルを、自分自身の力で円滑に解決していく力をつけることもとても大切です。
そこで今回は、入居者とのトラブル解決に役立つ「公正証書」の活用法について解説したいと思います。
いきなり強制執行が可能!公正証書の絶大な効力とは
賃貸借契約を結んでいる契約者が万が一家賃を滞納した場合、賃貸人としてはいきなり契約を解除したり、契約者の財産を差し押さえることはできません。まずは訴訟を起こして確定判決を獲得した上でなければ、強制的に債務を回収することはできないのです。
どんなに優秀な不動産業者が作成した賃貸借契約書だとしても、強制執行するためには必ず確定判決などの債務名義が必要となります。これに対し、賃貸借契約書を「公正証書」によって作成した場合はどうなるのでしょう。
公正証書は公証役場において作成する公文書のため、通常の契約書にはない「高い証明力」が付与されます。そのため、仮に賃貸借契約書を公正証書によって作成すると、万が一契約者が家賃を滞納した場合、訴訟を起こすことなく、いきなり強制執行の手続きに移行することができるのです。そのため、約束を守らない賃借人との契約は、公正証書化すると良いでしょう。
賃貸借契約書を公正証書で作成する際の必要書類と手数料について
このように公正証書は非常に強い法的効力があるため、その作成にはいくつかの書類と手続きが必要となります。
【必要書類】
1:当事者双方の顔写真付身分証明書(運転免許証やパスポート)
2:印鑑証明書(発行3ヶ月以内のもの)
3:実印
なお、賃借人が公証役場に来られない場合は、別途実印を押印した「委任状」があれば賃貸人単独でも手続きが可能です。なお、この際の委任状には、「強制執行に服する旨」の記載が必ず必要となります。
公正証書を作成する際には、公証役場に対して一定の「基本手数料」を支払うことになります。手数料の金額は賃貸借契約の場合、例えば家賃10万円で2年契約であれば、10万円×24ヶ月=240万円この2倍の額が「目的価額」となるため、基本手数料は11,000円となります。
連帯保証人もおらず、保証会社にも入れない人には、この方法を使って賃貸借契約することも可能です。
公正証書の作成スキームについて
賃貸借契約を公正証書で作成する場合は、主に次のようなスキームとなります。
ステップ1:事前打ち合わせ
公正証書は高度な正確性が求められるため、その日にすべて作成するわけではなく、予め公証役場に出向き、「公証人」と呼ばれる元裁判官や弁護士だった人と公正証書作成の事前打ち合わせをします。このときに契約書の詳細な内容を公証人に伝えて作成を依頼します。この段では賃貸人が一人で訪問すれば大丈夫です。
ステップ2:原案の確認
事前打ち合わせをもとに公証人が公正証書の原案を作成してくれますので、それを事前に確認します。原案はメール、ファックス、郵送などで送ってもらうことができます。
ステップ3:公正証書の完成
原案が出来上がったら、後日日程を調整し、再度公証役場に出向きます。この際に賃借人が同行できない場合は、事前に委任状と印鑑証明書を預かっておきましょう。公正証書に署名捺印し、正式に完成します。
家賃滞納が発覚してから公正証書にする裏技
このように予め賃貸借契約書を公正証書で作成しようとすると、賃借人が嫌がり契約に応じない可能性があります。そのため、家賃滞納が発生してから公正証書を作成したい場合は、賃貸借契約書ではなく、別途「金銭消費貸借契約書」を公正証書で作成するという手段もあります。
すなわち、滞納家賃分相当額を賃貸人から賃借人に「お金を貸した」ということにして、公正証書による「借用書」をつくると言うことです。これにより、たとえ賃借人が退去したとしても、賃貸借契約とは関係なく、金銭消費貸借契約に基づいて滞納家賃分を回収することができるのです。
このようにして契約書を公正証書化しておくことで、強制執行のために必要な「訴訟」という最も面倒な手続きを、万が一の時に省略することができます。ですので、賃借人との間で金銭的なトラブルが生じて和解に至ったような場合などは、必ず公正証書によってその書面を作成することをお勧めします。
まとめ
・保証会社や連帯保証人がいない場合は、公正証書という手がある
・滞納が発生してから、金銭消費貸借契約書で滞納家賃を回収する手もある
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