既存の消費税還付スキームは、ほぼ使えなくなる
平成28年度税制大綱より、今まで行われていた消費税還付スキームができなくなります。今後、消費税還付スキームを使おうとしていた方は、特に気を付けてください。
消費税還付は、とても複雑な仕組みで実施するのですが、大きな金額が還付されてくるのでとても効果のある手法でした。まずは、消費税還付の仕組みとはどういうものだったかを理解しながら、今回の税制大綱でどこがふさがれたのかを理解しましょう。
消費税還付とは
建物が1億円とすると、その建物に掛かる消費税は、8%であれば800万、10%であれば、1000万となります。とても大きな金額となりますので、支払った消費税が還付されるとなれば、手持ちの資金繰りにとても有効な手法となっていました。
通常のビジネスでいけば、売上にも仕入れにも消費税がかかります。そこで、売上のかかった消費税から仕入れにかかった消費税を引いて、納税することになります。
【通常のビジネス】
消費税の納付税額=
課税期間中の課税売上に係る消費税額−課税期間中の課税仕入れに係る消費税額
しかし、店舗や事務所ではない居住用(1R等の居住用賃貸)の家賃は、消費税が「非課税」となっています。したがって、すなわち消費税の課税対象となる売上がないので、原則的に消費税の申告義務がありません。
そのため、賃貸経営で消費税を還付するためには、課税期間に課税売上が必要になります。細かくいえば、消費税の還付額は、課税売上(消費税のかかる売上)の割合に左右されるので、全体の売上に占める課税売上の割合が高いほど消費税還付額は大きくなります。 そのため、賃料収入のように非課税売上の割合が大きければ大きいほど、消費税の還付額は小さくなってしまいます。
平成22年より前の消費税還付スキーム
平成22年の税制改正で塞がれましたが、自販機スキームと呼ばれていました。課税期間中の売り上げを自販機の売り上げで確保しながら、同じ期間に建物の消費税を支払うと、課税期間中の自販機の売上消費税が少なく、建物の仕入れ消費税が高額となるため、支払った消費税額がほとんど還付されてくるという仕組みでした。
平成22年以降の消費税還付スキーム
平成22年4月の税制改正により、消費税還付スキームに歯止めがかけられました。
【平成22年度の税制改正】
平成22年度の税制改正では、免税事業者が「消費税課税事業者選択届」を提出し、2年間の選択強制適用期間中にアパート・マンションなどの調整対象固定資産を取得した場合には、その後3年間は免税事業者に戻ること及び簡易課税を選択することが禁止されました。
そして、取得後3年後に調整対象固定資産に係る調整計算と呼ばれる計算が行われ、還付を受けた消費税は3年後に返還を求められることになりました。いわゆる「自販機スキーム」封じです。これにより、自販機を使って消費税還付を受けたら、3年後に返還しないといけないルールになったのです。
【平成22年度の改正後の消費税還付スキーム】
この平成22年後の改正後の消費税還付スキームにも抜け道がありました。
ここでのポイントは、免税事業者が「消費税課税事業者選択届書」を提出し、2年間の強制適用期間中にアパート・マンションなどの調整対象固定資産を取得した場合です。
一つ目は、もともと自動的に課税業者になっており、「消費税課税事業者選択届出書」を提出しなくても良い場合も従来の自販機スキームが使えました。
2つ目は、「消費税課税事業者選択届出書」を提出した場合でも、2年間の強制適用期間適用後に調整対象固定資産を取得した場合には、改正前と同様、調整対象固定資産制度の適用を回避することができるのです。つまり、消費税還付金の3年後の返還の必要はなくなるのです。
このため、平成22年以降の消費税還付スキームとしては、
・個人:「消費税課税事業者選択届出書」を提出後、2年を経過するまで待ち、その後に建物を取得することで消費税還付を受ける
・法人:
@新設法人で「消費税課税事業者選択届出書」を提出後、3期を経過するまで待ち、その後に建物を取得することで消費税還付を受ける
A詳細は省きますが、売上高を1000万以上(金の売買等)作り、自動的に課税業者になってから、消費税還付を受ける
ということをほとんどの方がやっていたことになります。しかし、平成28年度の税制改正で、上記手法は使えなくなります。
平成28年度の税制改正
【税制改正大綱抜粋】
高額資産を取得した場合における消費税の中小事業者に対する特例措置適用関係の見直し
@事業者(免税事業者を除く。)が、簡易課税制度の適用を受けない課税期間中に国内における高額資産の課税仕入れ又は高額資産の保税地域からの引取(以下「高額資産の仕入れ等」という。)を行った場合には、当該高額資産の仕入れ等の日の属する課税期間から当該課税期間の初日以後3年を経過する日の属する課税期間までの各課税期間においては、事業者免税点制度及び簡易課税制度は適用しない。
(注)上記の「高額資産」とは、一取引単位につき、支払対価の額が税抜1,000万円以上の棚卸資産又は調整対象固定資産とする。
A自ら建設等をした資産については、建設等に要した費用の額が税抜1,000万円以上となった日の属する課税期間から当該建設等が完了した日の属する課税期間の初日以後3年を経過する日の属する課税期間までの各課税期間において、上記@の措置を講ずる。
Bその他所要の措置を講ずる。
(注)上記の改正は、平成28年4月1日以後に高額資産の仕入れ等を行った場合について適用する。ただし、平成27年12月31日までに契約した締結に基づき平成28年4月1日以後に高額資産の仕入れ等を行った場合には、適用しない。
非常に難しい文言で書かれていますが、平成22年度で記載のあった、、「消費税課税事業者選択届出書を提出した場合」という文言と、「2年間」という文言を外したところがポイントです。
・2年間経過すれば、消費税還付が受けられることを塞いだ
・自動的に課税業者になった場合、消費税還付を受けれることを塞いだ
ということになります。
そのため、今までよく行われていた新設法人を2年間寝かせてから消費税還付を想定していた人は、その法人は無意味なものになってしまったといえます。
消費税還付の方法は、まだ、金の売買スキームを使い、消費税還付する手法はあるものの、税務署に睨まれやすいので、あまりお勧めしない方法です。もっとも1000万以内のものであれば、いままでと同様に使えますが、消費税還付のメリットは少ないでしょう。
令和2年度の税制改正
令和2年度の税制大綱では、金の売買スキームによる消費税還付を許さないという税務署の大方針の元、根元から消費税還付ができないように改正されることになりました。居住用不動産の消費税の仕入税額控除を、「一切認めない」ということおは、令和2年度の税制改正後に、いわゆる居住系の1棟マンション投資や1棟アパート投資では、消費税還付が一切できなくことを指しています。
【令和2年度税制大綱P83からの抜粋】
@ 居住用賃貸建物の取得に係わる消費税の仕入税額控除制度について、次の見直しを行う
イ 住宅の貸付の用に供しないことが明らかな建物以外の建物であって高額特定資産に該当するもの
(以下「居住用賃貸建物という」。)の課税仕入れについては、仕入税額控除制度の適用を認めないこととする。
今後は、令和2年度の税制大綱の中では、中古の居住用建物は、令和2年9月30日まで、新築の居住用建物は令和2年3月31日までに建物の請負契約を結んだものは、金の売買スキームによる消費税還付も可能と思われるが、その後は、居住用建物での消費税還付はほぼ不可能になっています。
今後の不動産投資、賃貸経営では、居住用建物おける消費税還付はできないことを前提に戦略を組み立てる必要があります。
まとめ
・平成28年後以降、金の売買スキームによる消費税還付が流行したが、行き過ぎであったため、令和2年の税制改正で消費税還付が塞がれることに
・令和2年9月30日(新築は建物の請負契約が令和2年3月31日まで)までは、金の売買スキームを使った消費税還付の抜け道は、引き続き使えますが、基本的にはお勧めしない
・令和2年10月1日以降に取得する中古の居住用不動産や、令和2年4月1日以降に建築する居住用不動産については、消費税還付ができない
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