デットクロスの恐怖:新築木造アパートのケース
新築の木造アパートにおけるデットクロスを見ていきます。新築は投資当初にキャッシュフローが出やすいので忘れがちになりますが、デットクロスの危険を知らずに投資している方が散見されます。現金買いならいいですが、借入をして、さらに長期の融資期間の場合は、特に気を付きたいところです。
デットクロスのおさらい
デットクロスとは、家賃収入に対する課税金額と実際のキャッシュフローが逆転しまう現象をいうものです。税金の計算と実際のキャッシュフローが異なることが、とてもわかりにくい現象となります。
- 不動産投資であるべき姿: 税引き前のキャッシュフロー > 税金
これがデットクロスすると
- 不動産投資でデットクロス: 税引き前のキャッシュフロー < 税金
となることです。
当たり前ですが、税金を支払っても手元にキャッシュフローが残らないと、なんのために不動産投資・賃貸経営しているかわかりません。したがって、このデットクロスの問題は、注意すべき事柄です。
私の投資手法は、残っている耐用年数以内でしか融資を受けておらず、利回りも高い(一番低いものでも10%、高いものは、15%、20%)ため、ほぼデットクロスは起きません。手元に残るキャッシュフローが少なくなるものの、赤字にはなりませんし、手元にキャッシュが多く残るように、個人、法人3社で分散して保有をしています。
法人所有するだけで、税を圧縮する様々な手法がとれるからです。法人保険、役員報酬、旅費規程、倒産防止共済、小規模事業共済、それらを組み合わせ、一番税負担の少ない実効税率に収まるように仕組みを作っているからです。
税金の計算と実際のキャッシュフロー(税引き後)
それでは、税金の計算と実際のキャッシュフローの違いを理解してから、新築木造のデットクロスの怖さを理解していきましょう。
例:新築アパート、建物の減価償却が22年、融資期間35年で借りているので返済比率45%程度を想定
新築時:家賃収入100万、経費(利息以外すべて)20万、利息30万、元金返済15万、減価償却20万を想定
【税金の計算】
・売上(+)
家賃収入:100万
・経費(−)
経費(利息以外すべて):20万
利息経費:30万
減価償却費:20万
※元金返済分15万は、支出しているが、経費ならない
計 70 万
・税引き前利益(売上100万−経費70万):30万
・税金(−)
税率30%:9万
・税引き後利益:21万
【実際のキャッシュフロー(税引き後)】
・売上(+)
家賃収入:100万
・支出(−)
経費(利息以外すべて):20万
利息経費:30万
元金返済:15万
※減価償却費の20万は経費になるが、実際には支出していない
計 65万
・税金(−)
税率30%:9万
・税引き後のキャッシュフロー(売上100万−支出65万−税金9万):26万
上記例では、耐用年数を長く取っているので、税金も取られますが、新築時にはキャッシュフローが残るシナリオです。
新築木造アパートは23年目にデットクロスしやすい
新築木造アパートの23年目を見ていきましょう。新築木造で、融資期間は、30年や35年の長期融資が出るようになっています。その融資がまだ、長期残っている段階で減価償却がなくなるとどのようになるでしょうか。
新築から築22年を経過すれば、家賃収入が15%程度落ち、経費が上昇します。また、利息と元金の総額は変わりませんが、利息と元金の比率は逆転していると想定できます。
23年後:家賃収入100万→85万、経費20万→30万、利息30万→15万、元金15万→30万へと変更になっていると仮定します。
【税金の計算】
・売上(+)
家賃収入:85万
・経費(−)
経費(利息以外すべて):30万
利息経費:15万
減価償却費:0万
※元金返済分30万は、支出しているが、経費ならない
計 45万
・税引き前利益(売上85万−経費45万):40万
・税金(−)
税率30%:約12万
・税引き後利益:28万
【実際のキャッシュフロー(税引き後)】
・売上(+)
家賃収入:85万
・支出(−)
経費(利息以外すべて):30万
利息経費:15万
元金返済:30万
計 75万
・税金(−)
税率30%:12万
・税引き後のキャッシュフロー(売上85万−支出75万−税金12万):▲2万
これが、新築の23年目におきるデットクロス現象です。利益が28万円も出ているのに、キャッシュが赤字2万円になるという現実です。これが、新築アパートで利回り8%前後の物件でよく起きる現象です。収支をよくしたいという思いから、融資期間を長期にして借ります。
長期で融資を組むことは悪いことではないですが、23年目には、減価償却はないけど、返済は発生しているという状況をきちんと押さえて投資する必要があります。あえてわかりやすく、23年目にしていますが、23年目になる前の段階からデットクロスに近いかデットクロスしているケースはあります。空室が増えたり、家賃がより大きく下落すると、もっと早い段階でデットクロスしてしまいます。築10年後でデットクロスするケースもみてきています。
これが、賃貸経営の黒字倒産と呼ばれるものです。
デットクロスした新築アパートへの対処
築古アパートと同様に、デットクロスしてしまった場合は、売却か減価償却資産の追加購入しかありませんが、新築アパートの出口は築古木造アパートのケースよりは、比較的楽に出口を迎えることができます。
@売却
例えば、1億の物件が建物7000万、土地3000万、ローン1億、金利3%、融資期間35年で借りて、23年後に売却する場合を考えてみます。※新築時には、土地より建物にお金がかかっていると想定しています。
【決算上】
資産
・土地3000万 のみ
借入
・5000万(22年経過後)
この時に、借り入れの残っている5000万で売却した場合、どれくらいの税金が発生するかというと
【個人】
・長期譲渡:(売却価額5000万−決算上の簿価3000万−取得費300万程度)*20%=340万! の税金
また、比較的高い金額である、8000万で売却した場合、どれくらいの税金が発生するかというと
【個人】
・長期譲渡:(売却価額8000万−決算上の簿価3000万−取得費300万程度)*20%=940万! の税金
上記のようになります。築古アパートと違うことは、残債が大きく減っているので、売却時に税金が払えない可能性は少ないです。そのため、デットクロスしたら、売却が比較的簡単にできます。
A減価償却できる資産を購入する
売却以外でデットクロスを回避していくには、減価償却できる資産を購入していくことになります。例えば、太陽光発電のような設備です。太陽光発電は、法人であれば、特別償却で100%もしくは30%を即時に償却できるため、利益を圧縮できるからです。
もしくは、中古のアパートをさらに追加で購入し、1棟目の利益と2棟目の利益を圧縮していくことで、キャッシュフローを出していきます。ただし、中古アパートの減価償却を使うとなると、4年ごとに以前保有している物件の利益を圧縮できる大きい減価償却を取らないといけないため、アパートの規模をどんどん大きくしていかないといけません。
まとめ
・新築木造アパートに耐用年数を大きく超える融資を受けると22年経過後は、デットクロスを起こしやすい
・デットクロスを起こしたら、売却かさらなる償却資産の買い増ししかない
・新築アパートの22経過後の売却は、納税リスクは低いため、比較的簡単
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